令和6年3月19日付の法務省民事局からの事務連絡に基づき、登録免許税の非課税措置に関する考え方を整理します。
租税特別措置法第84条の2の3第2項では、一定の条件を満たす相続登記について登録免許税を課さないと定められています。今回の事務連絡では、具体的な事例に基づいてこの規定の適用可否についての考え方が示されました。
租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用について
制度の概要租税特別措置法第84条の2の3第2項は、課税標準となる不動産の価額が100万円以下である場合に、相続による所有権移転登記にかかる登録免許税を免除する制度です。
対象となる登記と条件
・相続による所有権移転登記であること
・課税標準となる不動産の価額が100万円以下であること(登録免許税法第10条第1項に基づく)
事例による適用可否の検討
法務局からの照会に対し、法務省が示した具体的な判断内容を紹介します。
事例の概要
・被相続人Xが所有する固定資産税評価額160万円の土地
・Xの死亡後、死亡したAと存命のBが法定相続分(各2分の1)により相続登記を行う
課税標準と税額の計算
・不動産の価額:160万円(相続登記申請時の固定資産税評価額)
・登録免許税額:160万円 × 0.004(税率)= 6,400円
亡Aの持分に対する免税の適用
・亡Aの持分(2分の1)については、租税特別措置法第84条の2の3第1項により免税対象
・控除される税額:6,400円 × 1/2 = 3,200円
・Bが納付すべき税額:6,400円 − 3,200円 = 3,200円
第2項の適用可否についての判断
Bの持分に係る課税標準が80万円となるため、第2項の適用が可能ではないかとの照会に対する回答です。
法務省の見解
・第1項の適用により亡Aの持分に係る税額が控除されるが、課税標準そのものが減額されるわけではない
・登記の対象となる不動産の課税標準は160万円のままであり、第2項の「100万円以下」の要件を満たさない
・したがって、Bの登記について第2項の適用は認められない
共有持分の事例との違い
過去の質疑応答との比較により、今回の事例の位置づけを明確にします。
平成31年の質疑応答との相違点
・登記研究851号139頁では、被相続人が共有持分を有する場合に、持分割合を乗じた価額で判断することが相当とされている
・今回の事例は、被相続人が土地全体を所有していたケースであり、共有持分の事例とは趣旨が異なる
まとめ
租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用にあたっては、不動産全体の課税標準が100万円以下であるかどうかが判断基準となります。持分に応じた税額控除が行われた場合でも、課税標準そのものが減額されるわけではないため、適用可否には注意が必要です。
実務においては、登記申請時の固定資産税評価額を基準に、制度の趣旨と条文の構造を踏まえた判断が求められます。不明点がある場合は、所管の法務局や税務署に確認することをおすすめします。
租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用の考え方について〔令和6年3月19日付事務連絡〕
事務連絡
令和6年3月19日
法務局民事行政部首席登記官(不動産登記担当) 殿
地方法務局首席登記官(法人登記担当を除く。) 殿
法務省民事局民事第二課補佐官
租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用の考え方について(事務連絡)
租税特別措置法(昭和32年法律第26号。以下「租特法」という。)第84条の2の3第2項では、「登記に係る登録免許税法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額が100万円以下」であるときは、相続による所有権の移転の登記を受ける場合の登録免許税を課さないと規定されています。
ところが、先般、一部の法務局から、下記1の事例において同項の適用を受けられるのかとの問合せがありました。これについては、下記2のとおりと考えられますので、御留意願います。
記
1. 事例
被相続人Xが所有権登記名義人となっている固定資産税評価額が160万円の土地について、Xの死亡後に死亡したAと存命のBが法定相続分(各2分の1)により相続登記をする。この場合の登録免許税について、租特法第84条の2の3第2項が適用されるか。
被相続人X(160万円)
亡A(2分の1) B(2分の1)
2. 考え方
登録免許税法(昭和42年法律第35号)第10条第1項では、「不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額による」と規定されています。
ここでいう「登記の時における不動産の価額」とは、相続登記の申請時における不動産の固定資産税評価額であり、上記1の事例においては160万円が不動産の価額となります。また、この場合の登録免許税額は、160万円に税率千分の四を乗じた額(6,400円)となります。
上記1の事例においては、亡Aと存命のBとの法定相続分による相続登記であるところ、亡Aについては、租特法第84条の2の3第1項の「当該個人(死者)を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記」に該当するため、登録免許税は課されないこととなります。
そのため、上記の登録免許税額から亡Aが所有権の移転を受ける持分に相当する部分(2分の1)に係る登録免許税額を控除した額(3,200円)が、上記1の事例においてBが納付すべき登録免許税額となります。
この場合において、存命のBが納付すべき登録免許税については、課税標準たる不動産の価額が80万円となるので、租特法第84条の2の3第2項の適用を受けられるのではないかとの問合せをいただいたところですが、上記のとおり、租特法第84条の2の3第1項の適用によって亡Aが所有権の移転を受ける持分に相当する部分に係る登録免許税額が控除されるのみであり、登記の対象となる不動産の課税標準に影響を及ぼすものではありません。
よって、上記1の事例については、租特法第84条の2の3第2項は適用されません。
なお、「共有持分の相続に係る所有権の移転の登記の場合における租特法第84条の2の3第2項の適用の可否の判断をするに当たっての不動産の価額は、登録免許税法第10条第2項の持分の割合を乗じて計算した額とするのが相当」とした平成31年の質疑応答(登記研究851号139頁)がありますが、当該質疑応答は被相続人が共有持分を有する場合の事例であり、上記1の事例とは趣旨が異なるものですので、申し添えます。




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