(2)【数次相続】一人遺産分割協議の可否と平成28年先例の実務対応

2026年8月9日日曜日

不動産登記

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司法書士の実務において、相続登記が未了のまま次の相続(数次相続)が発生しているケースにはよく遭遇します。

今回は、最終的に相続人が「1人」になった場合に論点となる「一人遺産分割協議」の可否について、実務上の判断基準と対応を備忘録としてまとめます。

1. 具体的な事例(設例)

まずは、実務でよくある以下のシチュエーションを考えてみましょう。

【設例】

不動産の登記名義人である新城 太郎(父)が亡くなりました。相続人は、妻の新城 花子(母)と、一人息子の新城 一郎(子)の2名です。

しかし、父の相続登記をしないままでいるうちに、間もなく母の花子も亡くなってしまいました。結果として、現在の相続人は一人息子の一郎のみとなっています。

この場合、中間の母への名義変更を経ずに、「父から一人息子の一郎へ」直接1件の登記で所有権移転登記(相続)をすることはできるでしょうか?

2. 原則:一人の相続人による「二重の肩書」の遺産分割は不可

かつての実務では、一人息子が「自身の相続人としての地位」と「母の相続人としての地位」という二重の肩書で遺産分割協議(決定)を行ったことにして、父から子へ直接1件で相続登記を通す運用が一部で認められていました。しかし、現在は原則として認められません。

【根拠となる判例】
・東京地方裁判所平成26年3月13日判決
・東京高等裁判所平成26年9月30日控訴審判決

判例の趣旨は、「相続人が1人になった時点で、遺産は当然にその者の単独所有(または持分帰属)となり、共有状態ではなくなるため、そもそも『遺産分割』という概念が入り込む余地はない」というものです。

【原則的な登記手続き(2件申請)】
したがって、上記設例のままでは、原則通り以下の2連件で申請する必要があります。

  1. 1件目(父の相続):亡父 ⇒ 亡母(持分2分の1)、子(持分2分の1)
  2. 2件目(母の相続):亡母 ⇒ 子(持分2分の1)

1件で済む場合と比較して、登録免許税の負担が増加し、司法書士の申請報酬も2件分となるため、依頼者側のコスト負担が大きくなります。

3. 例外:母の生前に遺産分割協議が成立していた場合

上記の原則に対し、実務上非常に重要な救済措置となる先例が存在します。

【根拠となる先例】
・平成28年3月2日法務省民二第154号通知

この先例によると、「母の生前に、すでに『子が不動産を取得する』という内容の遺産分割協議が成立していた場合」であれば、遺産分割協議書が当時作成されていなくても合意自体は有効です。

そのため、母の死後に子が単独で作成した「遺産分割協議証明書」は登記原因証明情報としての適格性を有し、父から子へ直接1件で登記することが可能とされています。

【必要書類】
・子が単独で署名捺印した「遺産分割協議証明書」
・子の印鑑証明書

4. 司法書士としての実務上の注意点(最大のネック)

この平成28年先例を実務で適用する際、最も慎重にならなければならないのが「事実関係の確認」です。

母の生前に本当にそのような話し合いや合意があったのかどうかは、生存している一人息子しか知り得ません。客観的な証拠がないケースがほとんどです。

司法書士側から「1件で安く済ませるために、生前に口約束があったことにしましょう」などと誘導することは、虚偽の登記原因証明情報を知っていながら作成することになりかねず、絶対に行ってはなりません。依頼者からのヒアリングを徹底し、事実の真実性を見極めた上で、慎重に手続きを選択する必要があります。

5. 【オリジナル文例】遺産分割協議証明書

平成28年先例に基づき、直接1件で登記申請を行う場合の「遺産分割協議証明書」のひな形です。他サイトとの重複・類似を完全に排除したオリジナルデータに調整しています。

遺産分割協議証明書

令和4年10月15日、被相続人 新城 太郎(本籍:静岡県静岡市葵区追手町〇〇番地)の死亡により開始した相続において、共同相続人である 新城 花子 及び 新城 一郎 の間で、令和4年10月20日、以下のとおり遺産分割の協議が成立した。

その協議の結果、新城 一郎 が被相続人の遺産である後記不動産を単独で取得することに合意したことを証明する。

令和8年7月5日

相続人 兼 共同相続人 新城 花子 の相続人
住所:神奈川県横浜市中区日本大通〇〇番地
氏名:新 城 一 郎 (実印)

不動産の表示

所 在:静岡市葵区追手町
地 番:〇〇番
地 目:宅地
地 積:120.50平方メートル

まとめ:実務判断クイックチャート

【生前の協議(合意)の有無】生前協議なし(または不明)

【必要な登記件数】2件(父→母・子、母→子)

【添付する原因証明情報】法定相続による原因証明情報など

【生前の協議(合意)の有無】生前協議あり(確実)

【必要な登記件数】1件(父→子)

【添付する原因証明情報】子が単独作成した「遺産分割協議証明書」

依頼者から「費用を抑えたい」と要望されやすい論点ですが、平成26年判例と平成28年先例の厳密な線引きを意識し、安易な書面作成に流されないよう実務判断を行うことが重要です。




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