令和3年(2021年)2月より、商業・法人登記の手続が大きく変わりました。
背景には、政府全体で進められた「デジタル化の推進」と「行政手続の押印見直し」があります。
本記事では、令和3年1月29日付け民商第10号通達(法務省民事局長通達)に基づき、商業登記実務において「結局、実務の何が変わったのか?」を分かりやすく徹底解説します。
1. 印鑑提出の「任意化」と実務への影響
会社法改正等に伴い、これまで義務だった「登記所への印鑑提出」が任意化されました。
これにより、印鑑を提出していない法人が存在することを前提としたルールが整備されています。
① 申請書・委任状への押印
・書面申請の場合
引き続き、登記所届出印(会社実印)の押印が必要です(商登規35条の2)。
・印鑑未提出法人の場合
登記所に印鑑を提出していない法人の代表者が押印する場合、登記所届出印に代えて「市町村長作成の印鑑証明書(作成後3か月以内)」の添付が必要となります。
② 添付書面(承諾書・辞任届)の取扱い
・商号譲渡人の承諾書
譲渡人の登記所届出印を押印するか、または市町村長作成の印鑑証明書の添付が必要となります(商登規52条の2)。
・代表取締役の辞任届
【印鑑提出済みの会社】
辞任する代表者が登記所届出印を押印した場合は、印鑑証明書の添付は不要です。
【印鑑未提出の会社】
なりすまし防止のため、辞任する全代表者について辞任届への実印押印+市町村長作成の印鑑証明書が必要となります(商登規61条8項)。
2. 利用できる電子証明書の対象拡大
オンライン申請や、書面申請に添付する電磁的記録(PDF等)で使用できる電子証明書の範囲が大幅に緩和されました。
① マイナンバーカード等の利用が可能に
従来は商業登記電子証明書に限定されるケースが多くありましたが、マイナンバーカード(署名用電子証明書)や法務大臣が指定する電子証明書も広く利用できるようになりました。
② クラウド型電子署名サービス(クラウドサイン等)の解禁
取締役会議事録などの添付書面情報について、いわゆる「電子署名サービス(事業者署名型・リモート署名型)」によって作成されたデータの添付が認められるようになりました。
※注意点(代表取締役選定時)
代表取締役を選定した取締役会議事録など、厳格な本人確認が求められる場面では、電子署名サービスによる電子署名に加えて、商業登記電子証明書等を併せて付す必要があります。
3. 印鑑提出・廃止手続のオンライン化
これまで書面でしか行えなかった「印鑑届出」や「印鑑廃止届」が、オンラインで送信可能になりました。
【ポイント1:登記申請との同時送信が必須】
印鑑提出単独でのオンライン送信はできず、必ずオンライン登記申請と同時に行う必要があります。
【ポイント2:PDF作成の厳密なルール】
1. 法務省HPにある「1cm目盛り付き専用様式」を原寸大で印刷して押印。
2. 原寸大・600dpi程度を目安にPDFデータ化して送信。
3. 登記官が画面・印刷上で目盛りを計測し、縮小されていたり不鮮明な場合は原本提出を求められます。
4. 商業登記電子証明書の「オンライン請求」
会社・法人の電子証明書の発行請求(シリアル番号の取得)がオンラインで完結できるようになりました。
・印鑑未提出法人でも請求可能
登記所に印鑑を提出していない法人であっても、オンラインで電子証明書の請求が可能です。
・完全オンライン完結
委任状の郵送や収入印紙での納付は不可とされ、添付書面データ送信+電子納付(Pay-easy等)で処理を行います。発行されたシリアル番号は、システム上のメッセージボックスに通知されます。
5. 書面への「押印審査」の見直し(要・不要の一覧)
行政手続における押印全般の見直しに伴い、登記申請時に提出する各書面について「押印の有無を審査するかどうか」が明確に整理されました。
【押印が「不要(審査対象外)」となった主な書面】
・株主リスト(株主の氏名等を証する書面)
・資本金の額の計上に関する証明書
・役員の就任承諾書・辞任届(※取締役会設置会社における設立時取締役など、商登規61条4項・8項の適用を受けないもの)
・登記簿附属書類の閲覧申請書
・原本還付用の謄本、本人確認証明書(運転免許証等)の謄本(※「原本と相違ない」旨の記名は引き続き必要)
・上記の「押印不要な書面」に対する訂正印・契印
【引き続き押印が「必要」な書面】
・登記申請書、委任状(登記所届出印)
・定款(会社法26条1項)
・取締役会議事録(会社法369条3項)
・不正登記防止申出書・取下書
・登記無効原因証書
6. 定款認証と設立登記の「同時申請」&「24時間以内処理」
起業環境の整備を目的として、株式会社の設立手続に関するスピード化が導入されました。
① 定款認証と設立登記の同時申請
公証役場への定款認証嘱託と、法務局への設立登記申請をオンラインで同時に行うことができます。公証人による定款認証が完了したデータが送信された段階で、法務局での登記審査が開始されます。
・出資の履行時期について
定款作成日(または発起人全員の同意日)以降であれば、公証人の定款認証前であっても出資の払い込みを行って差し支えないとする運用が明確化されました。
② 設立登記の「24時間以内処理」
以下の要件を満たす株式会社設立登記については、申請受付から原則24時間以内に登記が完了する運用となっています。
1. 定款認証と設立登記をオンラインで同時申請していること
2. 設立時役員等が5人以内であること
3. 添付書類がすべて電子文書(電磁的記録)で送信されていること
4. 登録免許税を電子納付していること
まとめ
令和3年改正により、「書面提出における押印の負担軽減」と「完全オンライン化への道筋」が同時に推し進められました。
実務においては、特に「どの添付書面に押印(または印鑑証明書)が必要で、どれが不要になったか」、および「取締役会議事録等でのクラウド型電子署名の活用方法」を押さえておくことが重要です。




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